Wednesday, October 16, 2013

要約 その2 「19世紀後半の英国諸産業における株主有限責任制度の発展」井上健一著

「19世紀後半の英国諸産業における株主有限責任制度の発展」  著者 井上健一「武蔵大学論集」第47巻第3・4号、2000年3月、525p-539p 

偉大な先人の研究論文を要約し、イギリス会社法及び東南アジア会社法理解の一助とする。

海運業
1.19世紀中葉,海運業における3つ企業形態
①特許会社
②少数大規模個人又は家族企業
③「自由業者(free traders)」
上記のうち①、②は政府から郵便運送に係る特許を認められ、準独占的な地位を占める
①の例としてTne peninsular and Orient Line,The Royal West Indian Mail,The Pacific Steam Navigation Company②の例として、Cunard Shipping Company③は貨物運送中心

2.③の形態では、当初8分割、その後1854年海運業法(Shipping Act)の下で海運事業の資本が64(sixty-fourth)のパートナーに分割・配分されるという形をとった。当初、貨物運送の中心船であった木造帆船構造の船舶にとって必要とされる資本は、64制の限度内におさまる程度であったため広く普及した。

3.海運業における技術的変化とともに企業形態も変化する。1850年代に木造船から鉄製(iron)船舶を経て、鋼鉄製(steel)へ、動力も帆から三段膨張(triple-expansion)を経て、複合機関(compound engine)へと変化する。総トン数が大きくなり、ビジネスチャンスも増大するるにつれて投下する資本も大きくなる。そのため個人企業家だけでは追いつかず、一般大衆に対して投資をアピールする方法が求められていく。

4.1869年のスエズ運河開通もあり、大型船舶による大規模大量輸送が可能になる。貨物運輸の中心も帆船から蒸気船へと変わるが、蒸気船は、株主有限責任を採用した会社によって保有されるのが通常となった。こうして、1860年代から70年代にかけての海運ブームの際に組織された会社はほとんどが株主有限責任を導入した。

5.事例からわかるように、海運企業において株主有限責任が広く普及したのは、第一に急速かつ費用のかかる技術変化の発生によって個人ないしパートナーシップによる資本供給では航路維持に不十分という事態が生じたからである。

6.第二に、不定期航路などの小規模船団航路の場合は、事業リスク回避のために株主有限責任が採用された。航海時の災害事故の際、船主の負担が制限されるという利点があるからである。さらに、一会社一船舶(single ship company)として、海損の際、第三者からの損害賠償が他の船舶に及んでいくのを回避する目的で有限責任制度を使うこともあった。

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